熊本県人吉・球磨の市民グループ:通称「手渡す会」

会報「かわうそ」2号

1993年10月13日発行
清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会 会長 池井良暢

「川辺川ダム建設凍結」へ向けてさらなる前進
~「清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民大会」に700名が参加 ~

 去る9月23日(木)14時より、人吉カルチャーパレスにおいて「流域郡市民大会」が開催された。1000名目標で取り組んだが、取り組み期間が短く、参加人数の把握も十分できない中での700名の参加であり、これは大きな成果と言える。会員の皆さんの多大なる御尽力の賜物であり、厚く感謝申し上げます。
 参加者も人吉球磨郡市のみならず、県下各地あるいは九州各県から多くの方々に参加していただいた。それだけ、「川辺川ダム問題」に対して関心が高いということであり、日本に残された数少ない清流を残そう、五木村を救おう、ダムはいらないという意識をいかにたくさんの人達がもっているかの現れでもある。参加者の年齢層も幅広く、下は小・中・高校生の参加もあり女性の参加も目立った。また、地元の議員の参加もあり、人吉市・相良村・五木村より来ていただいた(中には、同じ日に建設省主催で開催された「川づくりフォーラム」に参加した後、顔を見せた議員もいた)。
 当日の大会は、池井良暢会長の「主催者挨拶」の後、重松隆敏事務局長が「経過報告」「基調報告」を行い、その後4名の方々の講演に移った。

◆基調講演「環境と人間」 原田正純熊本大学医学部助教授
     (水俣病問題に永年関わっておられる公害問題研究の第一人者)
◆実践講座 「魚から見たダムと魚道」 君塚芳輝二松学舎大学講師(魚類学者)
◆記念講演 「ダムに頼らない村づくり」 保母武彦島根大学法文学部教授
         (宍道湖淡水化阻止の理論的指導者)
◆フリートーク 「川辺川をめぐる想い」 野田知佑氏(作家、カヌーイスト)

☆講演の内容(要旨)は、次回報告します。(現在、講演のテープおこしを行っているところです)

 また、当日飛び入り参加のお二人も素晴らしい歌と話を聞かせていただいた。免田町在住の甲斐あきひろさんは、現在の五木村住民の心情を「五木の子守唄」の歌詞を変えて歌われ、参加者の涙を誘っていた。
 応援メッセージの山下弘文さん(日本湿地ネットワーク代表、長崎県諌早市在住)は、元気が出る話しっぷりで、訴えるポイントが明確でわかりやすく大変好評であった。

 講演の後、「大会スローガン採択」そして「大会宣言採択」を経て、緒方俊一郎副会長の「閉会挨拶」で幕を閉じた(18時閉会)。
 延々4時間にも及ぶ大イベントで少々長すぎた感もあったが、それぞれの内容はどれも素晴らしく、聞くものを飽きさせることがなかった。大会に参加した人、何人かに意見を聞いても、「もっと勉強しなければならないと思った」という人や、「とにかく何かしなければと思った。とりあえず私の知人に署名を頼もうと思うから署名用紙を下さい」という人や、「再考川辺川ダムを売りまくるからいっぱいくれ!」という人など、前向きの姿勢の人が格段に増えたことがわかる。新聞記事でこの大会のことを知り、大会に参加した後さっそく事務局員となり、現在バリバリ頑張っている人もいる。また一つ、仲間の輪が広がっていくのを実感できる。
 大会参加者へのアンケート調査も実施した(回答総数:121名)。「あなたは川辺川ダム建設をどう思いますか」という質問に対して、A.反対:80名、B.凍結すべき:41名、C。必要:O名ということで、回答者すべてが「反対」か「凍結」という意見であった。

 また郡市民大会後、各方面に大きな反響を投げかけることができた。特に「川辺川ダム促進協議会」を設立し、「建設促進」に邁進する地元自治体は10月1日に総会を開き、今後の対応を話し合っている。新聞報道によると私たちの運動が盛り上がりを見せている中で川辺川ダムがスムーズに進むかどうか不安であるという意見が続出したとのこと。最後には、「川辺川ダム建設事業を強力に推進し、予算の大幅な増額を図る」など6項目を決議している。建設促進に邁進する地元自治体の姿勢を問いただす上でも、今後何等かの対応が必要である。

 五木村9月定例議会でも、以下のような質問・意見が出され、西村村長は次のように回答している(人吉新聞[10月1日]参照)。
 Q.頭地代替地はどの場所から始めるのか?調印していない世帯数は?
 A.建設省は今年秋に南側から着工したいといっている。調印については土地所有者49人のうち38人に協力してもらっており、造成が始まると2、3人が協力して頂くようになっている。松本地区の二度移転や登記で難しい点があるが、建設省では随時関係者に協力を依頼中。

 Q.未来に手渡す流域郡市民の会について、村としてこのまま放っておいていいのか。
 A.24、5年前のことであれば考えもあったが、今ではダムによる新しい村づくりに邁進している。私たちとしては、こういうことにとらわれず新しい村づくりを進めていきたい。

 Q.村長三期目の具体的な政策は?
 A.ダムによる新しい村づくりが私の政策だ。

 Q.立村計画は現実にあったものに考え直すべきではないか。
 A.その時、その時でよいものについては見直したい。

 Q.凍結を訴えている会の代表と会って対応するべき。もし凍結にでもなれば補償金をとって離村が相次ぐのではないか。
 A.私が代表と会って話をすると注目を集めるので、建設省や県、議会、執行部で話を聞くほうが賢明だと患っている。

 いずれにせよ、私たちの会の存在がある意味で認知された結果と言える。五木村に対しては、「ダムに頼る村づくり」ではなく「ダムに頼らない村づくり」に展望を見出だしてもらうため、私たちの考える五木村立村計画を提示する必要性がある。

ダム取付け道路から見た、ダム水没予定地内にある野原小学校 1993年10月11日 手渡す会撮影

ダム水没予定地内にある野原小学校前での大山次郎さん、原豊典さん  1993年10月11日 手渡す会撮影

頭地代替地予定地の縄文遺跡の発掘現場 1993年10月11日 手渡す会撮影

 現在事務局を中心に、川辺川ダム建設の目的の一つである「利水事業」が行き詰まりを見せている現状を捕らえ、利水事業受益者農家対象にさまざまな情宣活動を展開しているところである。
 これまで行った活動は以下の通りである。
 10月2日(土)多良木町黒肥地地区へのチラシ(川辺川利水事業の問題点をまとめたもの)配布行動
    3日(日)深田村、須恵村へのチラシ配布行動
   10日(日) 相良村へのチラシ配布行動
   11日(月)    同上
 この川辺川利水事業は、受益者農家の同意が取れなければ実施できないものであり、利水事業の根本的な見直しがなされるようであれば、川辺川ダム建設自体も再度見直しをしなければならなくなる。そのような意味でも、利水事業を巡る農民の方々の動向次第で、「川辺川ダム建設凍結」実現も可能である。 利水事業の予算要求の締切りが10月中とのこと。10月中に受益者農家の同意がとれなければ予算要求できず、来年度の事業もできない。多くの農民にこの問題を知ってもらわなければならない。

人吉新聞記事(1993年9月24日)