熊本県人吉・球磨の市民グループ:通称「手渡す会」

会報「かわうそ」37号

2005年11月21日発行
清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会 会長 緒方俊一郎

国交省収用申請「取り下げ」で川辺川ダム計画白紙に!

 国土交通省は9月15日、川辺川ダム建設に伴う流域漁業権や土地の収用裁決申請を取り下げました。計画発表から40年目にして川辺川ダム事業計画は白紙に戻り、今後のダム建設の行方は全く不透明となりました。
 1966年の川辺川ダムの計画発表以来40年にもわたり、地元はダム計画に振り回され続けてきました。流域の治水対策はもちろん、利水も地域づくりも、ダム計画があったがために放置されてきました。行政がダムにこだわり続けるがぎり、今後もこの状態が続くことになります。
 これまでの「川辺川ダムを考える住民討論集会」の中で、過去最大の洪水が来ても、一部の未改修の地区を除いて球磨川からあふれないことや、ダムに頼った治水は危険であり、ダムなしの総合治水対策が現実的であることが、住民側の主張により明らかにされました。治水でも利水でも、川辺川ダムは不要です。
 また、1968年当時、国は川辺川ダムの総事業費を215億円と見積もり、5年後の1973年度には完成するとしていました。ところがその10倍近い2000億円を投じ、40年が経過してもなおダム本体工事に着手すらできず、計画は白紙に戻ったのです。昨年8月、国は総事業費を3300億円と試算していたことが明らかになりましたが、それが今後どこまでふくらみ、いつ完成するか、見当もつかなくなりました。
 流域住民の生命・財産を守るために、国交省は途方もない困難と期間のかかる川辺川ダム建設を即時中止し、河川改修など現実的な治水対策に早急に取りかかるべきです。

国土交通省に対し川辺川ダム収用裁決申請「取り下げ」を勧告した熊本県収用委員会(2005.8.30 緒方撮影)

手渡す会・2005年6月~2005年10月の出来事

05. 6. 4 新利水計画のダム案と非ダム案について、農家への説明会と5巡目の集落座談会が始まる。
  6.27 新利水計画の集落座談会の出席率17.8%。関係農家の関心の低さが明らかになる。
  7. 3 川辺川ダム新利水計画、採算割れの見通しと朝日新聞が報道。
  7.13 五木村の瀬目トンネルに、新たな内壁はく離があることが明らかになる。
  7.24 潮谷知事、農業と水の重要性訴え、人吉で講演。
  7.30 手渡す会学習会(人吉カルチャーパレス)に100名参加。
  8.22 ブックレット「川辺川ダムはいらん!」初版第1版を発行。
  8.30 熊本県収用委員会、国土交通省に対し川辺川ダム収用裁決申請「取り下げ」を勧告。
  9. 1 川辺川ダム事業認定取り消し訴訟(尺アユ裁判)で、原告漁民は「国交省は収用申請を取り下げ、話し合いの窓口を開くべき」と主張。
  9.15 国土交通省、収用申請を取り下げ、川辺川ダム計画白紙に。
  9.15 手渡す会が北側一雄・国土交通大臣に川辺川ダム計画中止を求める要請書を送付。
  9.28 台風14号襲来後、川辺川が長期にわたって濁っていることで、手渡す会が国交省に2つの砂防ダム撤去の要請書を提出。
  10. 7 熊本県が川辺川ダム計画への対応を探る「川辺川ダム総合対策会議」(議長:潮谷知事)を発足させ、初会合。
  11. 4 川辺川ダム事業認定取り消し訴訟(尺アユ裁判)で、国が事業認定の失効を認める。

ダム建設と五木の振興は切り離して!

 水没予定地を抱える五木村で9月28日、村民大会が開かれ、10月3日にはダム本体の早期着工などを求め、西村久徳村長らが県や九州農政局に陳情しました。ダム計画が白紙化したため、五木村はダムを前提とする立村が不透明になったと危機感を抱いています。
 しかし、ダムを前提とした地域振興策は「絵にかいた餅」に過ぎません。利用価値のないダム湖に、一体どれだけの観光客が集まるのでしょうか。林業と観光を基盤とする五木の振興策に、ダムはマイナス要因としかなりえません。ダム建設と五木の振興は切り離して考えるべきです。

頭地の旧集落と代替地(2005.8.2 緒方撮影)

川辺川の濁水の原因は砂防ダムだ!

 9月6日の台風14号の襲来後、川辺川の深刻な濁りは1ヶ月あまりにわたり続きました。手渡す会スタッフで川辺川上流域をくまなく調査したところ、八代市(旧泉村)の朴木(ほうのき)砂防ダム上流部に堆積した土砂で清流が濁水に変わっているのを確認しました。
 この長期にわたる濁りにより、流域の鮎漁は昨年以上に大きな打撃を受けています。ところが国土交通省は「長期濁りの原因は、山腹崩壊や河岸の洗掘などによる影響が大きいと考えられる(人吉新聞2005.9.22)」との見解しか示していません。
 そこで、手渡す会は流域の漁民有志とともに9月28日、国交省川辺川砂防事務所を訪れ、川辺川濁水の原因である朴木砂防ダム・樅木砂防ダムの撤去を強く要請しました。
 その後、10月6日、住民と国土交通省の共同調査で、同ダムが濁水を流し続けていることを再度確認し、2つの砂防ダムの撤去を再度要請しました。
 水質日本一の清流を濁水に変えたのは、規模の小さい砂防ダムでした。今後、もし高さ61mの五木ダムや、高さ107.5mの川辺川ダムが建設されたら、川辺川と球磨川の清流は完全に破壊されるのは明らかです。

会計報告(2005.5.22~2005.10.21)

│収入の部 │ 金額 │備考 │
│繰越金 │ △265,907│ │
│年会費・カンパ │ 1,167,780│グッズの売上、雑収入なども含む│
│合計 │   901,873│ │
│支出の部 │  金額 │備考 │
│郵送費 │    241,165│会報発送、資料発送 │
│交通費 │  28,223│高速代など │
│事務用品費 │    67,830│紙代、文具など │
│事務所維持費 │    289,512│家賃、電気、電話など │
│その他 │  28,900│広告費など │
│合計 │   655,630│ │ 
(収入)901,873-(支出)655,630=246,243
◇「手渡す会」は、皆様方の年会費とご寄付のみで運営しております。2005年分の年会費(一口1000円)未納の方は、ご支援ご協力の程、よろしくお願い申し上げます。

ダムに頼らぬ治水・利水を!

 国土交通省の「収用裁決申請の取り下げ」後、一部のダム促進派は活発な動きを見せています。 川辺川ダム建設促進協議会(会長・福永浩介人吉市長)は10月27日、国土交通省に対し、ダムの早期着工などを求める要望書を提出しました。福永会長は「地元としても川辺川ダム建設に強い意志で臨む」とアピールしたとのことですが、住民がダム建設を求めていないことは、これまで何度も行われた各種の世論調査の結果からも明らかです。
 また、自民党県連の「川辺川ダム問題プロジェクトチーム」が10月27日、初会合を開き、治水と利水を切り離すことなく、多目的ダムの建設を国や県に求めていく方針を確認したといいます。しかし、川辺川ダム計画は白紙となり、今後もダムに頼るとすれば、流域の治水も利水も実現するまで途方もない時間がかかることになります。
 10月31日には、第3次小泉改造内閣で留任した北側一雄・国土交通大臣が就任会見で「治水面で川辺川ダムは必要だ」と述べています。国交大臣は、ダム本体着工のめどを立てるために「農水省に早く新利水計画をまとめてもらいたい」と語っていますが、ダム計画そのものがなくなっているのに、ダムを水源とする利水案など立てられるはずがありません。
 国交省は、新河川法による新たなダム計画を一から練り直すことになります。それには、河川整備計画の策定、環境アセスメントの実施、住民との合意形成、県議会と知事の同意など、多くの困難な手続きが必要となります。着工には流域の漁業権の取得も必要不可欠です。熊本県の財政も破綻寸前であり、これらが全てクリアできるはずがありません。流域住民のために、今こそ、ダムに頼らぬ現実的な治水・利水へと転換すべきです。

是非お読みください!

編集後記

 このたび、ブックレット「川辺川ダムはいらん!~住民が考えた球磨川流域の総合治水対策」を花伝社から出版しました。全国の主要書店で好評発売中です。住民有志による編集委員会をつくり、住民討論集会の資料などをもとに学習会を重ね、住民の、住民による、住民のための、ダムに頼らない治水対策をまとめました。専門的な表現をできるだけなくし、写真や図を満載し、誰が読んでも分かりやすく仕上げました。これ一冊で、川辺川ダム問題の現在と、球磨川の治水対策のあるべき姿が、よくご理解いただけると思います。川辺川ダム問題解決に向けた材料として、多くの方々に読んでいただきたいと思います。チラシを同封しました。販売拡大にご協力ください。(N.O.)