熊本県人吉・球磨の市民グループ:通称「手渡す会」

会報「かわうそ」5号

1994年03月18日発行
清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会 会長 池井 良暢

水源開発計画の見直し機関設置を求める緊急集会、盛会裡に終わる

 昨年12月24日、「水源開発問題全国連絡会(以下、全国連絡会)」による五十嵐建設大臣との話合いが実現して以来、ダムなどの水源開発問題に関する行政の姿勢は、一歩の前進を示し始めました。「全国連絡会」(「手渡す会」も加盟)は、水源開発計画の見直し機関の設置に向けて積極的に関与していくために、去る2月24日(木)午後1時から衆議院第二議員会館にて各政党の代表者を迎えての集会を行い、全国各地16団体から120名の関係者が集い、私たち「手渡す会」からも、重松事務局長を始め3名が参加しました。
 話し合いにはそのうち30名ほどが参加し、建設省の用意した小さい会議室は一杯になりました。建設省側の出席者は、坂本河川開発課長(局長代理)、藤本調整官を含めた6名でした。「全国連絡会」が事前に渡しておいた要請書の3点に対して建設省側が答える形式で進みました。

①水源開発計画が立案されたのは今から数十年以上前のことであるが、そ の後の水需要の動向の変化で、水源開発事業そのものの必要性が失われ ている。それにもかかわらず、建設省がこれらの水源開発事業を今なお 推進する根拠を明確にされたい。

 これに対し藤本氏は、ダム建設は地元の自治体の決議を経て実施されているので法的に問題はないことを長々と説明し始めました。ダム建設の社会的な不必要性を質した申し入れに対し、法的手続き上問題がないことをその根拠として説明したものであったので、この取り違えた説明に対し皆の怒りが爆発し、話し合いは冒頭から紛糾しました。
 「仮に法律に則った手続きがされてきたとしても、20~40年も経って社会的に問題が生じてきたのだから見直すべきだというのが建設大臣の見解であるが、建設省(官僚)はその点をどめように認識し、反省しているのですか」という意見に対し、建設省側は沈黙してしまいました。「川辺川ダムの場合、地元自治体から出された建設促進の陳情書の内容は地元建設省工事事務所の指図によるものであり、文面も工事事務所と市執行部が打合せの上提出されたものであり、住民の意思が表明されたものではない」「昨年私たちが行った9月23日の郡市民大会と同じ日、同じ時刻に建設省主催で『川づくりフォーラム』が人吉市において開かれた。意図的なものがあったと思うがどうか」「地元の熊日新聞などに、公費を使ってダム建設のメリットだけとダムがさも自然環境保護に役立つかのような宣伝を大々的に行っているがどうか」等の追及をしましたが、以上のことについては本省はすべて関与していないし、知ってもいないという回答でした。

②水源開発事業に関連する諸データはほとんど公開されていない。ダムな どの開発水量の算出根拠、ダムの安全性に関わる地質調査データ、過去 の洪水の諸データと治水計画の根拠データ、自然環境への影響調査結果 などを公開されたい。

 藤本氏は、「住民から疑問があれば出してもらい、その疑問に即応して建設省側で解釈・整理したものを出す」と答え、坂本氏も「資料を出さなければならないという法律はないんですよ」と回答しました。 これに対し「全国連絡会」から「逆に出してはいけないという法律もないはずである。つまり、裁量権の問題なのだから大臣発言にしたがって資料を出すべきではないか」と迫りましたが、建設省側はまた沈黙してしまいました。

③建設省及び各地方建設局は今まで、水源開発計画の是非についての話し 合いにはほとんど応じてこなかった。計画の是非について真摯な議論が できるように、話合いの場を設けることを保証されたい。

 藤本氏は、「理解してもらうための説明はするが、対等の話合いというものではない」と私たちの要求をつっぱね、坂本氏は「現地の工事事務所で話し合いには応じるし、その権限も持っているので是非工事事務所と話し合ってもらいたい。そのように各事務所には指示してある」と述べました。     
 これに対し、「説明を承るのではなく、対等の話合いをすべきてある」とか「大臣は権限のない出先機関よりも本省とよく話し合うようにと言った」等指摘しましたが、坂本氏は「本省での話し合いは政策変更についてだと思う」と述べました。
 最後に、坂本氏は「全国連絡会と建設大臣との話合いの中で大臣が言明したことは守っていく」と述べました。以上のように、今回の話し合いは大臣言明の内容を建設官僚に確認させた点で大きな成果がありました。しかし、建設大臣との話合いのときの発言と今回の建設官僚の「お上意識」丸出しの姿勢との落差もかなり目立ちました。

五木村頭地・五木東小学校 1994年 手渡す会撮影

川辺川ダム問題で紀平参議現地視察 ~建設大臣への働きかけや国会議員への協力要請を約束~

 去る3月6日(日)、紀平参議が相良村を訪れ、私たち「手渡す会」及び川辺川利水事業見直しを求める「川辺川利水を考える会」(古川十市会長)のメンバーから地元の生の意見を聞いた後、高原(たかんばる)台地30haの農地を潤している既存の「川村飛行場用水路」、相良村六藤にある同用水路の川辺川取水口、さらにダム建設予定地、五木村頭地地区へも足を延ばし、現地調査をされました。
 紀平参議は今回、「手渡す会」が取り組んでいる国会、政府へ提出するダム建設凍結などを求める請願書の紹介議員になっていただき、地元の意見を聞くために現地入りされたもので、川辺川ダム問題で国会議員が現地入りしたのは初めてのことでありました。
 話合いのなかでは、「30年前に計画された事業で、既に現状にあわない」事を強調し、特に「利水を考える会」からは、現在「国営川辺川総合土地改良事業」に関係するおよそ4千戸の農家を対象に農水省が実施している計画変更概要の同意取得について、「農家の負担金が不要の本水路のみ前面に打ち出し、その後の農家負担事業は隠しながら同意取得を要請している」と実情を訴えました(関連記事は6ページにあり)。
 紀平参議は、「地元の世論をもっと盛り上げて欲しい」という注文をつけられた上で、「環境問題に関心が高い国会議員にも協力を要請し、全国規模で問題を提起していきたい」と述べられ、政府内に水源開発計画の見直し機関を設置するよう五十嵐建設大臣にも働きかけていくことを約束されました。
 「九州脊梁山地の原生林保護」に関して、超党派の女性議員を紹介議員に国会請願を実現した実績を持つ紀平参議への期待は大きいものがありますが、それと並行してその他の国会議員や政党に対しても、今後継続した働きかけをしていくつもりです。

五木村頭地の風景 1994年 手渡す会撮影

人吉市内地区集会で住民の声を聞く ~水害常襲地域の駒井田町、紺屋町、九日町で開催

 前号で紹介しました1月25日の下青井地区集会に続いて、2月には9日に駒井田町、12日に紺屋町、15日に九日町で地区集会を開催しました。 今回の集会の何よりの成果は、水害常襲地域に住む住民の方々が川辺川ダムについてどのように考えているかという生の声を聞けたことでした。
 各集会では、下青井地区と同様にまず「山は崩れる~ある巨大ダムからの報告」というビデオを見ていただいて、意見交換をしました。駒井田地区では、同じく水害常襲地域である球磨村一勝地にお住いの有岡利枝さんから、過去の水害の体験を聞く中で、それが市房ダムから緊急放流のために引き起こされたものであることは誰の目にも明らかな事実であるという証言がなされました。「人吉からダム放流のサイレンが鳴り、水が流されるぞと聞いて30分もしないうちに急激に増水した。ものすごい水の荒さで、波が立ってくる感じであった。その後、これは市房ダムが一気に放水したためと思って、管理事務所に抗議の電話をしたが、私たちは計画通りに放水していると全く取り合わない。立ってくるような水は今までなかったことであり、ダムの放水以外に考えられない」と語られた。

 以下、各地区集会で地元住民から出されました主な意見を掲載します。
◆S4O年の大水害の時は大損害を被った。ここは市房ダムができる前は、ほとんど水害を受けることがなかったところであった。球磨川下りがなくなったら人吉はどうなるのか。川下り会社や観光業者は何を考えているのか、市民も心のなかでは大変なことだとわかっていながら、誰かがしてくれるだろうという感じではないか。(駒井田町住民)
◆人吉市民の大半は、ダム建設についてどっちつかずの状態ではないか。洪水か川の汚濁か二者択一で迷っているのではないか。(鬼木町住民)
◆今まで第三者的に見ていたが、川下りや鮎のことを考えるとダムは死活問題だ。(紺屋町住民)
◆この10年来、水害は起こっていない。今更ダムは作らなくてもいいのでは ないか。ダムができれば放水によってかえって危険性が高まるのではないか。(中青井町住民)
◆市町村が時代の変化はわかっているはずなのに、ダムを作っで欲しいという陳情をしている。今一番やらなくてはいけないことは、地元の市町村長に陳情を撤回させることではないか。(紺屋町住民)
◆計画以来30年近くたって、多目的でやる必要がなくなっているのではないか。ダムの放水時期を間違うと大変なことになる。水害から守るというが、川辺川ダムはかえって出来れば危険性が高まるのではないか。球磨川の水位低下、清流の消滅が人吉観光にマイナスになる。ダム建設は非常に金がかかる。必要性のないダムを作るということは、利権が絡んでいるとしか思えない。(九日町住民)
◆みんなダムには反対だが、それを表明できない原因があるのではないか。国や県が五木村や相良村の当事者にやる気をなくさせているので、その意識を変えさせないとどうにもならないのではないか。集会に人が集まらないのは、「もうどうしようもない」という意識があるからではないか。(九日町住民)
◆35才以下の人は洪水の経験がないし年配の人は反対運動が挫折した経験がある。人吉市民の関心の薄さはそこに原因があるのではないか。川のそばに住んでいる人が一番川のことを考えているので、水害常襲地域の球磨村や坂本村の人の話を、相良村ですることが必要ではないか。(九日町住民)

 これまで4ケ所で地区集会を開催してきましたが、まだまだ人吉市民の意識は低いと考えざるを得ません。ぽとんどの人が「ダムは必要ない」と考えているが、それを表明できない人が多い実態です。結局出てくるのは、「今更やっても手遅れだ」とか「相良や五木の事を考えると何も言えない」といった言葉であり、無関心と諦め感が支配的です。「まだ間に合う!」ということを具体的に知らしめていくことが、何よりも大切であると痛感しています。

五木村頭地の風景 1994年 手渡す会撮影

我等の憩いの場所が出来たよ! 皆さん、遊びに来てくださいね

 球磨川の中河原公園にあった食堂を改装し、この度事務所がオープンしました。30~40人は収容できる広いスペースと、窓から見える球磨川の流れがGOOD!今後は、単なる事務所としてだけではなく、いろんな人たちが気兼ねなく出入りできる雰囲気づくりをしながら、この事務所や中河原公園などを利用したいろんな催しを企画していきたいと考えています。皆さん、お気軽に足をお運びください。お待ちしています。

誰のため、何のための事業なのか? 
~川辺川利水事業計画概要変更を巡る「利水を考える会」の活動報告~

 農民の立場で利水問題について論議していこうと発足した「川辺川利水を考える会」(古川十市会長)は、2月8日に農水省が「国営川辺川総合土地改良事業」の計画変更概要を公告して以来、活発に活動を続けてこられました。 前述しました計画概要変更の公告ですが、「縦覧期間が2月14日まで5日間となっているが、公告したこと自体知らされず、期間中に休日や閉庁が挟まり縦覧する機会が十分与えられていない」として3月8日まで20日間の縦覧延長を、人吉市や球磨郡の4人の事業対象農家の方が九州農政局川辺川農業水利事業所に請願されました。
 これに対し、同事業所は「法の規定で縦覧期間は終わったが、引き続き市町村役場で公告資料を閲覧できるようにする」と回答。 しかし、今回の計画変更は概要の公告のみで、同意するか同意しないかを判断する上で内容が不明確(水代がいくらかかるか等)として、2月25日には再度同事業所を訪れ、畑英次郎農林水産大臣宛て請願書を提出されました。この請願書を提出するに当たって、短い期間の中で川辺川利水事業関係7市町村のうち人吉、相良、錦、多良木、深田の5市町村の161人の事業対象農家から署名を取られました。 請願の趣旨は、計画変更概要に不明確な点があり、同意取得の判断材料に欠けるとして、計画概要に疑問点の明示や充実追加を求めており、3月11日までに書面での回答を希望されています。
 また、順番が逆になりましたが、2月8日には国営川辺川利水事業の関係者を招いて説明会を相良村の新並木公民館で開催されました。質疑のなかで、この事業でいまだ明らかにされていない点について不満や要望が数多く出されました。
 例えば・・・▼現在本地域(旧飛行場地区)には、毎秒1tの水がきているが、利水事業の 場合は渇水期でも球磨川下りなど下流の水量を確保しなくてはならない。本 当に当地区の水量が確保できるのか。▼我々は現在自然流水を使っているが、揚水ポンプの電気代は負担することに なるのか、またいくらになるのか。▼事業の受益地となると、将来は宅地造成だけでなく企業進出も儘ならない。 普通の農地転用と同じというが不的確にされるのがおち。
 これに対し、事業所の説明は十分納得の行くものではなかったと言います。現在、計画変更の同意取得作業が各市町村で行われています。しかし聞くところによると、未だに「水はただで来るから、同意の判をくれ」と言って農家を回っている市町村があるとのこと。農民をだましてでも実施しようというこの川辺川利水事業って一体、誰のための、何のための事業なんでしょうか。

五木村頭地の風景 1994年 手渡す会撮影

個人でもできる国会請願運動にご協力を!

 今回、紀平参議が国会請願の紹介議員になっていただいたことで、同封の「川辺川ダム建設の凍結と環境アセスメントの実施を求める請願(国会提出用)」用紙により、請願者1名からでも国会請願ができることになりました。 そこで私たち「手渡す会」では、会員の皆さんに請願用紙の「請願者、住所、氏名」欄に記入し捺印の上(「紹介議員」の欄は無記入で)、事務局まで送っていただき、入れ替わり立ち替わり個人名で国会請願をする運動を展開したいと考えています。
 この請願を繰り返すことにより、「国会議員公報」の請願事項の欄に何回も何回も掲載されることになり、国会議員も必ず目を通すことになり、長良川河口堰問題同様広く知らせる手立てとなるという利点があります。 是非、同封しました「請願用紙」を住所、氏名を記入し捺印の上、下記のところに郵送して下さい。御協力よろしくお願い致します。    〒868 人吉市北泉田町214  重松隆敏 まで

新刊図書紹介

 毎日新聞人吉支局の福岡賢正記者が、一昨年毎日新聞熊本版に連載された「再考川辺川ダム」がいよいよ本になります!
 その名も・・・『国が川を壊す理由(わけ)』(葦書房、288ページ、定価:1550円[税込]) 3月下旬発売ということで、是非皆さん御購入の上、御一読いただければと思います。綿密な調査に基づき、川辺川ダムの問題点をズバリ指摘したすばらしい本です。(問合せ先:葦書房 電話092-761-2895)

情報告知板

◆川は誰のものかシンポジウム~相模大堰・川辺川ダム・長良川河口堰を通して日本の川を考える~*日時:4月9日(土) 14:00~17:30 
*場所:横浜開港記念館ホール(神奈川県庁そば、JR関内駅5分)
*内容:〔1部]シンポジウム(川辺川、長良川、相模川からの報告)
[2部]小室等(フォークシンガー)ミニコンサート、
[3部]・講演:村上康成さん(絵本作家)    
・対談:野田知佑さんと小室等さん
*入場料:大人2000円(前売1800円)
*主催:相模川キャンプインシンポジウム (電話0427-56-6916) 
◎前売り券があります。御希望の方は御連絡下さい。

◆秋津レークタウン 活き生きフェスタ
*日時:4月17日(日) 11時~15時 
*場所:秋津レークタウンクリニック(熊本市)
*内容:せせらぎトーク [進行:原田正純熊大医学部助教授]      
ゲスト:野田知佑さん(カヌーイスト、エッセイスト)          
緒方俊一郎さん(手渡す会、相良村医師)
*せせらぎトークは12:30~14:30の予定です。「手渡す会」からもパネル写真展示を会場にて行う予定です。皆さん是非おいで下さい!

編集後記

◆5ページで紹介しました新しい事務所の名称は「くま川ハウス」。 気軽にやってきて、川や自然についていろんな話ができるような憩いの場所 にしたいと思っています。「くま川ハウス」を利用した楽しい企画募集中!◆コピー機をゆずって下さい。事務所で使用します。無料・安価で譲ってもい いという方の御連絡を待っています! ◆自分の家に眠ったままになっている署名用紙がありませんか?・・・既に 署名を取って家に置いたままになっているものがありましたら、郵送か御持 参いただければ幸いです。(郵送先:〒868人吉市北泉田町214重松隆敏)◆今回の「編集後記」はお願いばかりになりました。カンパ、請願運動、署名 活動・・いろいろありますが出来るところから御協力を!(S.A)