熊本県人吉・球磨の市民グループ:通称「手渡す会」

会報「かわうそ」19号

1998年04月13日発行
清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会 会長 池井 良暢

川辺川ダム問題ヒヤリング
超党派国会議員により霞ヶ関で開催! 

 超党派の国会議員でつくる「公共事業チェックを実現する議員の会」主催による、関係省庁とダム見直しNGO(住民団体)との話し合いが1月28日と3月26日に、東京・永田町の衆議院議員会館で行われました。初代環境庁長官の大石武一さんも、『清流川辺川を守る東京の会』の会長として参加されました。(このヒヤリングは、今後も継続されます)

第1ラウンド(1/28)

 人吉からは「手渡す会」事務局長の重松さんが上京し、市民側から14名、国会議員が9名、行政側からは建設省・農水省・大蔵省・環境庁の川辺川ダム担当者が計8名参加しました。
 市民側が事前に提出していた「すでに計画当初予定建設費を上回る1300億円を投入しているが、総事業費はいくらか」「利水事業は係争中でも事業を進めるのか」などの質問に、納得できる回答は得られずじまい。中でも、建設省が総事業費について明確な数字を示さないまま予算を計上している点について、批判が集中しました。

第1回川辺川ダム問題ヒアリング(衆議院第1議員会館第4会議室)1998.1.28 東京の会撮影

第2ラウンド(3/26)

 人吉からは「手渡す会」事務局長の重松さん、原さん、利水訴訟原告団長の梅山さん、漁師の吉村さんが上京しました。市民側から15名、国会議員が4名、行政側から6名が参加しました。
 今回は、地元からの実情報告、問題提起が全体を圧倒しました。まずは梅山さんが農水省のむちゃくちゃな利水事業の進め方を告発。次に原さんが「受益者」であるはずの人吉市民がダムはいらぬと署名がどんどん集まる事を報告。重松さんは昭和40年の市房ダム放流による水害の被害を説明。吉村さんは行政側の強引な事業の進め方を告発。松本先生は一目瞭然な図面によるダム付近の地質学上からの危険性を告発。これら全てが今後、建設省にとってボディーブローとなって効いてくるはずです。(2度のヒヤリングの間隙をぬう形で、建設省は総事業費を2.3倍増やし2650億円とし、熊本県議会の同意もあっという間に取り付け、4月9日には来年度後半を目途に本体着工をするとの記者発表を行いました。建設省もあせっています)

手渡す会・12月~3月の出来事

97.11.29 鷲見一夫教授(新潟大)が川辺川現地調査 
  12. 6 フレッド・ピアス氏(環境ジャーナリスト) 谷田一三教授(大阪府立大)
      川那部浩哉氏(琵琶湖博物館館長)が川辺川現地調査。
      忘年会(くま川ハウス)
98. 1.19 理学博士・松本幡郎氏(元熊大教授)の地質学習会開始
  1.28 第1回川辺川ダム問題ヒヤリング(衆議院・議員会館)
  2. 2 中島煕八郎教授(熊本県立大)「五木村の将来を考える」学習会  
  2.10~ ダム建設が止まった町・矢田ダム(大分県大野町)見学ツアー
  2.23 遠藤隆久教授(熊本学園大)「情報公開と直接請求」学習会
  3. 3  川辺川ダム基本計画変更について慎重審議を県議会各会派に要請
      熊本県庁前で早朝ビラ配り 
  3. 4 川辺川利水裁判第6回公判
  3.19 熊本県議会総務委員会で「川辺川ダム基本計画変更に反対」の請
      願は不採択に。県知事意見は可決
  3.24 熊本県議会本会議で同上の請願は不採択に
  3.26 第2回川辺川ダム問題ヒヤリング(衆議院・議員会館)
  4. 9 建設省、来年度後半に本体着工と記者発表

水生昆虫の権威である谷田一三教授(大阪府立大)、淡水魚研究の権威である川那部浩哉氏(琵琶湖博物館館長)を迎えての、川辺川水生昆虫観察会。相良村権現橋下の河原にて(1997.12.6 緒方撮影) 

「ダムはムダ」の著者、世界的な環境ジャーナリスト フレッド・ピアス氏を迎え、満員の球磨川ハウス (1997.12.6 緒方撮影)

球磨川ハウスで語るフレッド・ピアス氏(1997.12.6 緒方撮影)

ハンコ行政が農民だます川辺川利水事業

 役所に出す書類のうち1万1570種類が、1年以内に「ハンコ不要」となるそうです。一体、何のためにハンコが必要なのでしょうか。本来は、本人と確認するためなのでしょうが、認め印などどこでも買えます。印鑑が犯罪に使われるケースもあるでしょう。
 さて、計画中の川辺川ダムから水を引こうとする川辺川利水事業は不要として、裁判所に訴えた農家(原告団)は対象農家の過半数を越える2060人に達しています。一方、被告の農水省側は対象農家の3分の2以上の同意を取得したとしながら、同意書の署名の中に本人以外による署名捺印があることを認めています。
 先日、この利水裁判の弁護士による、同意書の署名の筆跡と印鑑が本人のものであるかを確かめる確認調査に同行した際、驚きました。「これは私の署名(筆跡)、印鑑ではない」という農民が続出したのです。ということは、農水省は偽りの印鑑で、偽りの同意を取ったということになります。
 このような地道な弁護団の調査により、これまでに同意書の署名が「自分の署名(筆跡・印鑑)でない」という農民が322名、「水代はいらない」など虚偽の説明で同意させられたという農民が390名いることが、3月4日に開かれた利水裁判第6回公判で明らかになりました。農水省が事業執行の根拠としている2/3以上の同意を取り付けたという同意書の信憑性は、これで完全に崩れたことになります。

川辺川ダムの基本計画変更で総事業費2650億円に!

 建設省は、川辺川ダムの基本計画を変更するために特定多目的ダム法に基づき熊本県知事に意見を求め、3月県議会において審議されました。建設省による変更内容は、①かんがい対象面積を20%縮小する②ダムの総事業費を2.3倍増やす③工期を平成20年まで8年間延長する、の3点です。
 ダムの目的や規模は見直しもなされず、また、この財政難の中、総事業費2650億円のうち熊本県の負担金も580億円(県民1人あたりなんと3万4000円!)にのぼることから、県議会開催日の3月3日に慎重審議を求める要請を、県議会各会派に行いました。また、県庁前で早朝1500枚のビラ配りも行いました。
 また、3月13日にはダム見直しの各住民団体から「慎重審議」や「ダム建設中止」を求める10件の請願が提出されました。
 結果的には、10件の請願は全て不採択になりましたが、県議会の各会派や全議員に川辺川ダム問題を働きかける初めての機会となりました。利水裁判に勝ち、かんがい目的を完全に消し去り、再びダム基本計画の変更がなされる状況を作り出しましょう。

会計報告(97、11、21~98、4、2)

収入の部      金額       備考 
繰越金        504,755 
年会費・カンパ   619,969 グッズの売上、雑収入、シンポジウム収益金なども含む  
合計       1,124,724  
支出の部      金額       備考 
郵送費        131,440 会報発送、資料発送など  
紙代          18,919 会報、チラシ、資料など  
事務用品費     17,517 タックシールなど 
事務所維持費   472,045 家賃、電気、電話、コピー機、印刷機、水道など 
旅費         142,000 東京2名、講師宿泊費など 
その他         37,375 封筒1万枚など  
合計         819,296 
  (収入)1,124,724-(支出)819,296=305,428円
◇会員拡大にご協力を!
 皆様方の資金面でのご協力に、厚く御礼申し上げます。年会費を納入された方、ハウス応援団で御協力いただいている方には大変失礼ながら、今回、郵便振替用紙を同封させていただきました。また、今後さらに活動を広げていくためにも、皆様のお近くの方に川辺川の事をお話しいただき、会員を1名増やしていただけないでしょうか。年会費(1000円) を納入された方には、会報「かわうそ」をお送りします。よろしくお願い致します。

ダム建設が止まった町 矢田ダムを見学しました!

 建設省が昨年建設を中止・休止した18のダム計画の中に、大分県・矢田ダムが含まれていました。そこで、地元・大野町の町長さんや住民団体の方との交流を含め、2月10日からの2日間にわたり現地調査を行いました。
 昭和44年、建設省は一方的に矢田ダム計画を発表しました。水没戸数は190戸。治水、都市用水(工業用水・水道用水)を目的にしています。何よりも、水没住民諸団体の徹底した反対運動が、ダム「休止」となった最大の理由のようです。また、都市用水の需要が当初の予想を大きく下回ったこと、さらに治水面でも下流域からダムを求める声は聞かれなかったことは、川辺川ダムとも類似している点でした。 結局、地元にとって28年間も振り回されてきたダムとは①人心を破壊するもの、②地域振興を著しく遅らせるもの、③ダム対策のために余計な出費を強いるもの、ということが分かりました。

「アメリカでダムの時代は終わった」と宣言したアメリカ開墾局総裁ダニエル・ビアード氏の講演会に手渡す会スタッフ参加(福岡市) 1998.3.28 緒方撮影

アメリカ開墾局総裁ダニエル・ビアード氏の講演会後、交流する手渡す会スタッフ(福岡市)1998.3.28 手渡す会撮影

編集後記

 11月は、国際的な見地から河川行政に疑問を投げかけている鷲見一夫教授(新潟大) が、12月は、世界的な環境ジャーナリストであるフレッド・ピアス氏、水生昆虫の権威である谷田一三教授(大阪府立大) 、淡水魚研究の第一人者である川那部浩哉氏(琵琶湖博物館館長)が相次いで川辺川を現地調査されました。忘年会は、上のご三方をゲストに、くま川ハウスは50人の大入り満員となりました。(同封の新聞記事をご参照ください) 3月28日、福岡で「アメリカでダムの時代は終わった」と宣言された、ダニエル・ビアード氏の講演会に参加しました。95年2月に手渡した英文の文書や、96年9月の長良川デーで御覧になった川辺川の写真もよく覚えておられ、次回は是非川辺川を訪れたい、と述べられました。(N.O.)