熊本県人吉・球磨の市民グループ:通称「手渡す会」

会報「かわうそ」21号

1998年11月30日発行
清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会 会長 池井 良暢

「川辺川ダム基本計画変更」に3850人が異議申し立て! 
~みんなの声でダム建設を中止に~

 建設省は、川辺川ダムの総事業費や工期を大幅に引き伸ばす基本計画の変更を6月9日に告示しました。これに対して「手渡す会」など各市民グループは、ダム建設の目的や規模は何ら見直されていないことから、計画変更には納得できないとして行政不服審査法に基づき異議申し立てを行いました。 皮切りは、7月29日に建設省川辺川工事事務所に提出した743人分。その後、福岡の九州地方建設局や東京の建設省本省にも続々と提出され、建設大臣に直接郵送された分も含め、異議申し立てを行った住民は3850人(事務局把握分)に上っています。
 異議申し立て書は、「ダム建設の目的は科学的な吟味を経ていないし、地域住民の意思を正しく反映してもいない」とし、異議申し立ての理由として「建設目的が喪失したダム事業に巨額の税金を投入すべきでない」「ダムは堆砂に埋まり将来災害の発生源になる」「球磨川本流の市房ダムとの統合管理は不可能」など、論点は70通り以上にのぼります。
 また、水没予定地区3人を含む42人の五木村民が異議申し立てを行ったことは、五木村民の意思が形として現れた注目すべき事実です。「五木村民に犠牲を強いるダム建設の推進は許せない」「国は五木村民のさまざまな被害・犠牲を認め、十分な生活再建策を講じよ」「ダム建設の目的はなくなり、これでは五木村民は犬死にではないか」などと村民は訴えています。
 その後、9月7日には「口頭意見陳述の申し立て書」を提出しました。前例のない事態のためか、建設省の対応は慎重そのもの。「特定多目的ダム法と行政不服審査法に基づいて審査する」と答えるにとどまっています。

異議申立書の提出 建設省川辺川工事事務所(相良村) 左から木本雅己さん、堀尾芳人さん、西村忠孝さん、重松隆敏さんら(1998.7.29 緒方撮影)

異議申立書の提出 建設省川辺川工事事務所(相良村)(1998.7.29 緒方撮影)

手渡す会・7月~11月の出来事

98. 7. 4 建設省川辺川ダム説明会(人吉市チサンホテル)。事業に異議を
      唱える意見相次ぐ。
  7.12 公共事業のあり方を問題提起している五十嵐敬喜・法政大教授ら
      が川辺川現地調査。
  7.29 川辺川ダム基本計画変更に743人が異議申し立て。
  8. 7 異議申し立て2780人に。
  8.13 農水省が、川辺川利水事業を「公表せず再検討」していたことが
      新聞報道で明らかになる。
  8.14 川辺川利水訴訟原告団が「原告側の声も聞くべき」と抗議。
  8.20 異議申し立て3850人に。(事務局把握分)。
  8.22~ 第2回清流・川辺川現地調査(400名参加)
  9. 7 異議申し立て「口頭意見陳述の申し立て書」を提出。
  9. 8 五木村の水没2団体、新たな補償基準を建設省に要求。
  9.10 川辺川利水事業「再検討」問題緊急シンポジウム(熊本市)
  9.18 人吉市議会で、川辺川ダム建設促進と見直し陳情8件、採決され 
      ずに継続審議に。
  10. 8川辺川利水裁判・第8回口頭弁論(熊本地裁)
  10.12「川辺川ダム建設見直しの要望書」を流域首長・議会に提出。
  10.15重松事務局長ら上京し、建設・農水省に事業見直しや情報公開を
      求める要望書を提出。
  10.16シンポジウム「川を守るのは誰か」(東京)150名参加。
  11. 1国土問題研究会、川辺川現地調査開始。(主に治水問題)

人吉市議会関連

 9月人吉市議会において、『ダム問題特別委員会』でこれまで継続審議になっていた、川辺川ダム建設に関する8件の陳情のうち「早期着工」3件を採択、「建設見直し」5件を不採択という報告がなされ、本来であればそのまま本会議を通過するものが、本会議において数々の疑問や意見が噴出し、議会は紛糾。結局採決は行われずに一転、『ダム問題特別委員会』に差し戻されました。
 市の有権者の過半数が「ダム見直し」陳情署名を提出していたにもかかわらず、ダム促進決議が強行採決された4年前の市議会と比べれば、ようやく市民の声が議会に届き始めたとも言えるのではないでしょうか。

川辺川利水問題関連

 計画中の川辺川ダムから水を引こうとする川辺川利水事業の必要性を、農水省が再検討していることが8月に新聞報道で明らかになりました。この再評価システムは、昨年12月に当時の橋本首相が公共事業の効率的な執行と透明性確保を課題として導入を表明したものです。
 ところが、再評価の対象事業や審議日程さえ事前には公表しないまま、すでに結論の取りまとめにはいっているとのことです。審議過程をオープンにしなければ、住民の声は反映されず、事業者にとって都合のいい結論が出るだけです。
 農水省は「土地改良区からの意見聴取で農民の声を聞いた」と言っているとのことですが、改良区組合員は337人しかおらず、対象農家のほんの一部でしかありません。ところが、この利水事業は不要として裁判所に訴えた農家(原告団)からは、対象農家の過半数を越える2000人以上に達しているにも拘らず、意見聴取さえなかったそうです。一体、誰のための、何のための「事業見直し」なのでしょうか。
 また、10月8日の口答弁論で、農水省は死者76人から同意を取ったことを認めました。さらに、農水省は同意署名の達成ノルマを関係市町村に課していたことも新聞報道で明らかになりました。農水省が計画変更の「錦の御旗」とする同意書のずさんさは、ますます浮き彫りにされています。

会計報告(98、6、27~98、11、21)

収入の部      金額       備考 
繰越金        504,019 
年会費・カンパ   788,443 グッズの売上、雑収入なども含む  
合計       1,292,462  
支出の部      金額       備考 
郵送費        151,540 会報発送、資料発送など  
紙代          24,191 会報、チラシ、資料など  
事務用品費      89,206 タックシール、印刷機インクマスターロールなど 
事務所維持費   451,715 家賃、電気、電話、コピー機、水道など 
旅費         59,800 栃木1名、高速料金など  
その他        14,700 NGOの会負担金、鍵工事費  
合計         791,152   
(収入)1,292,462-(支出)791,152=501,310円
◆今年度の年会費(1,000円)未納の方は、ご協力何卒よろしくお願い致します。カンパも大歓迎です。カンパ・会費は、下記までお願い致します。郵便振替「01970-1-27826」 「清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会」

川辺川ダム・代替案の検討を進めよう!

 建設省は、川辺川ダムに代わる治水対策について、堤防かさ上げなど5つの対案を比較検討したとしています。「いずれの案よりもダムが最良の策だ」とのことですが、まず、治水対策のもととなっている基本高水流量が過大に設定されていると、多くの専門家が指摘しています。
 さらに、5つの案を別々に切り離して検討し、その中の1つの案のみで過大に設定されたピーク流量をカバーしようとする点が問題です。真の治水対策を考えるためには、個々の治水対策案が環境に与える影響やコストなども考慮しながら、複数の対策を組み合わせて、それらの良いところを生かせるような形で、総合的に検討すべきです。
 11月1日、国土問題研究会の上野さんらの現地調査に同行しました。川辺川合流点から上流の球磨川を、水上村までさかのぼりました。建設省が検討した「遊水地候補地」は、球磨川の連続堤防ができるまでは多くが現役の遊水地であったことや、建設省の代替案では、これら「遊水地候補地」を全て買い上げ、掘り下げることになっているので膨大なコストがかかってしまうことが分かりました。 ピーク流量を適正に設定すれば、遊水池や森林を保全して『緑のダム』を育てるなどの手段を複合的に使って、ダムなしでも治水対策はできるはずです。川辺川ダム建設中止後の『治水代替案』検討を進める時期にさしかかっています。(国土研調査の詳細は、同封の新聞記事をご覧ください)

球磨川流域を現地調査する国土問題研究会の上野さんら(1998.11.1 緒方撮影)

「手渡す会」総会&忘年会

●と き 12月14日(月)午後7時30分~  くま川ハウスにて 
●なかみ ・経過報告、会計報告、今後の活動方針 ・忘年会(会費500円)   
◆出欠確認のはがきや委任状など同封しなければならないところですが、正直な話、経費節減のため省略させていただきました。

編集後記

 11月14・15日に「球磨川・川辺川源流水リレー」(球磨川水系ネットワーク主催) に参加しました。14日の早朝、水上村の球磨川源流に歩いて登り、源流の水を汲みました。その後、自転車、たくさんの小学生や大人達、みこし、おじいちゃん、女子高生、人力車など200人くらいの手を経て、夕方、人吉市の中川原に到着。夜は、川辺川源流から運ばれた水と合体。そして、100名程の大宴会。2日目は中川原を朝7時にカヌーで出発。球泉洞からは、またたくさんの人の手を経て、夕方、球磨川河口の水島に到着。夕日が八代海に落ち、合唱団が「組曲・球磨川」を歌う中、源流の水が八代海に放されたときは感動ものでした。のべ300人以上の手を経て、人力で源流の水を海に運ぶ。たくさんの人達が、いろんな角度から川を、そしてふる里を見つめているんだなと、深く感動した2日間でした。(N.O.)