熊本県人吉・球磨の市民グループ:通称「手渡す会」

会報「かわうそ」38号

2006年03月20日発行
清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会 会長 緒方俊一郎

川辺川の新治水方針は住民参加の熊本方式で!

 国土交通省の収用裁決申請の取り下げで、川辺川ダム事業計画が白紙化している中、同省は球磨川流域の新たな治水方針(河川整備基本方針)の策定に着手しました。潮谷義子・熊本県知事も、策定にかかわる検討小委員会に加わる意向を示しました。
 これは、新河川法に基づく手続きで、検討小委員会は国交省が示す「基本高水流量」(洪水時の最大流量)などを検討することになっています。ところが、委員の多数を国交省側の専門家が占めており、すでに先行している流域では、住民から「国交省の示す数値に委員は反論できない」との批判が出ています。
 住民を締め出す、このような国交省のやり方は、時代に逆行するものです。これでは客観的な検証はとても期待できず、流域住民の納得も得られないことは明らかです。
 川辺川では、2001年12月から事業者(国交省)と住民が同じテーブルにつき、熊本県がコーディネートして事業の是非を議論する「川辺川ダムを考える住民討論集会」が開催されてきました。その中で「基本高水流量」の検討も行われました。過去最大の洪水が来ても、一部の未改修の地区を除いて現状でも球磨川からあふれないことや、ダムなしの総合治水対策が現実的であることが、住民側の主張により明らかにされました。
 住民討論集会や新利水計画の策定を通して、熊本県が国と住民との調整役をしてきた実績は「熊本方式」とも呼ばれ、高く評価されています。新河川法の精神は、「流域住民の意見や環境に配慮した川づくりを進める」です。国土交通省は、「熊本方式」の実績を活かし、住民参加で河川整備基本方針づくりを進めるべきです。

第2回川辺川ダムを考える住民討論集会 八代市厚生会館(2002.2.24 手渡す会撮影)

手渡す会・2005年11月~2006年3月の出来事

05.11.18 手渡す会などが北側国交大臣宛に「川辺川ダム事業計画の即時中止と現実的な治水対策の早期実現を求める要請書」を提出。
  11.24 手渡す会など8団体の代表が上京し、国交省、財務省などに「川辺川ダム計画の速やかな廃止」などの要望書を提出。
  12.13 農水省が、新利水計画の水源を川辺川ダムとする「ダム案」と、新設する堰とする「非ダム案」を提示。
  12.27 熊本県議会議員8名による「ダムによらない治水・利水を考える県議の会」が発足。
  12.28 川辺川ダム事業認定取り消し訴訟(尺アユ裁判)、原告漁民の勝利で終結。
06. 1.31 国土交通省が球磨川流域の新たな治水方針(河川整備基本方針)の策定作業に着手したことが明らかになる。
  2.12 潮谷義子・熊本県知事が五木村を訪れ、村民と意見交換。
  3. 6 川辺川の新利水計画策定で、熊本県が水源を川辺川ダムとせず、川辺川から直接取水する独自案を農水省に提示。
  3. 9 自民党県連、新利水計画の県独自案について、知事に抗議文提出することを決定。

ダムに頼らぬ治水を!

 人吉市の中川原周辺や、繊月大橋周辺などの河床には、大量の土砂が堆積しています。それらを除去すれば、洪水の水位もぐっと下がるのは当然のことであり、私たちは土砂の撤去をずっと要望してきました。
 国交省もようやく、昨年12月から人吉市の中川原周辺に堆積した土砂の撤去作業にとりかかり、工事は先日終了しました。撤去工事の対象となったのは、中河原公園の上下流の延長600m。通常時に水が流れていない河原の土砂を、最大幅100m、深さ1.5mほど取り除きました。この工事を、地元の業者が9000万円で受注しています。
 建設まで何十年もかかるダム建設ではなく、このような現実的な治水対策が求められています。また、ダム建設は大手のゼネコンしか受注できませんが、河道の整備や改修ならば地元の業者が受注できます。ダムに頼らぬ治水対策は、地域振興にもつながるのです。

人吉市・中川原の土砂撤去工事(2006.1.7 緒方撮影)

熊本県、「非ダム」利水案を提示!

 川辺川の新利水計画策定で、調整役の熊本県が水源を川辺川ダムとせず、川辺川ダム予定地の直下に取水装置を設置して、川辺川から直接取水する独自案を農水省に提示しました。
 新利水計画については農水省、対象農家、流域の市町村などが同じテーブルにつき、熊本県が調整役となって新利水計画の水源を「川辺川ダム」とするのか「非ダム」とするのか話し合う事前協議が続いていますが、意見の隔たりが大きく、どちらの案でも事業を実施するために必要な農家の3分の2の同意を得るのは難しいと見られていました。
 川辺川利水訴訟原告団の茂吉隆典団長は「熊本県案は農家負担も安く、漁業補償で混乱が懸念された堰(せき)も設けず、通水開始が確実に早まる」と歓迎。ところが、熊本県が独自の非ダム案を示したことについて、自民党は猛反発をしています。
 自民党の反発の理由に農家の立場に立ったものは見受けられず、「県独自案は、多目的ダムである川辺川ダムを造りたくないと考えていることの表れ」「自民党は、最初からダム案を選択している」などと、ダムをごり押ししようとする姿勢をあからさまにしています。
 農家にとって最もよい方策を客観的に判断すべきです。より早く、安く、確実に農家に水が届けられる方策が選択されることを望みます。

会計報告(2005.10.22~2006.2.21)

│収入の部 │ 金額 │備考 │
│繰越金 │  246,243│ │
│年会費・カンパ │ 364,628│グッズの売上、雑収入なども含む│
│合計 │ 610,871│ │
│支出の部 │  金額 │備考 │
│郵送費 │ 109,275│会報発送、資料発送 │
│交通費 │ 122,566│高速代、水源連大会(群馬)など│
│事務用品費 │ 40,262│紙代、文具など │
│事務所維持費 │ 239,220│家賃、電気、電話など │
│その他 │  33,600│治水ブックレット50冊 │
│合計 │ 544,923│ │ 
(収入)610,871-(支出)544,923=65,948
◇「手渡す会」は、皆様方の年会費とご寄付のみで運営しております。2006年分 の年会費(一口1000円)払い込み用紙を同封させていただきました。ご支援ご 協力の程、よろしくお願い申し上げます。

川辺川の濁水の原因は穴あきダムだ!

 今年に入り、川辺川は雨のたびに白く濁り続けています。冬季の少雨でも白濁するとは、以前の川辺川では全く考えられないことです。
 私たちは川辺川上流部を調査したところ、五家荘の朴木(ほうのき)砂防ダム上流部に土砂が5m以上堆積し、少しの雨でも堆積した土砂が溶け出し、清流が濁水に変わっているのを確認しました。
 一昨年の台風16号、昨年の台風14号の襲来で、朴木ダム・樅木ダム上流部に大量の土砂が堆積し、川辺川は長期間濁り、流域のアユ漁は大きな打撃を受けました。川底の石が泥を被ったままでは、今年もアユは順調に生育することができないでしょう。
 また、川辺川の濁りは球磨川本流も汚しており、観光都市である人吉市のイメージを非常に悪くしています。
 この2つの砂防ダムは、実体は巨大な貯留域を持つ「穴あきダム」です。手渡す会や流域の漁民有志は国土交通省に対し、川辺川の深刻な濁りの原因である朴木ダム・樅木ダムの撤去を何度も要請しています。ダム本体建設予定地のある相良村議会は3月17日、川辺川の改修や水質保全への対策を国・県に求める意見書を、全会一致で採択しました。 水質日本一の清流を長期間濁水に変えたのは、高さ25mの砂防ダムでした。美しかった渓谷に土砂を大量に堆積させ、川の環境を破壊しているのです。今後もし、高さ61mの五木ダムや、高さ107.5mの川辺川ダムが建設されたら、川辺川と球磨川の清流は完全に破壊されるのは明らかです。

5m以上堆積した朴木(ほうのき)砂防ダム上流部(2006.2 生駒撮影)

編集後記

 昨年12月に、熊本県議会議員8名による「ダムによらない治水・利水を考える県議の会」が発足しました。現地視察や学習会、知事への提言書の提出など、活発な活動を展開されています。◇新利水計画策定で、熊本県が川辺川から直接取水する独自案を提示したことに対し、自民党が猛反発しました。県議会では自民党の県議が潮谷知事の答弁を拒否しました。「県独自案」が「ダム案」よりも優れていることが明らかになるのを恐れたのでしょうか。議会という公の場できちんと議論さえしない自民党の姿勢は、全くおかしなものです。農民の立場に立った協議の再開が待たれます。一方、ダム本体建設予定地のある相良村の矢上雅義村長は3月17日の村議会で、県の独自案を評価しています。◇3月27日には、人吉で県議の会の第2回県民学習会が開かれます。大変重要な集会です。是非お集まりください。(N.O.)