熊本県人吉・球磨の市民グループ:通称「手渡す会」

3/13、手渡す会は他の2団体と連名で蒲島知事宛に要請書を提出しました。

 要請書では、豪雨災害による被害拡大メカニズムの解明のため個別具体に関する共同検証を、国が定めるガイドラインに基づいて行うことを、求めました。具体的には、くまがわ鉄道第四橋梁が流木などで埋塞されダム化・決壊した「第四橋梁問題」が被害拡大にどう機能したのか、共同検証をして事実解明をしてください、というもの。
 国交省が定めるガイドライン「美しい山河を守る災害復旧基本方針」では、豪雨災害後の改良復旧事業に際して次のことを明記しています(p.146-147)。
・近年の大規模災害時には過剰な土砂が供給されて河道が埋塞し、あるいは大量の流木が流下して橋梁を閉塞させ、災害を複雑かつ拡大させている事例が散見されるようになってきた
・流域の地形・地質や砂防施設の整備状況、樹木管理の状況等を分析しそれらの影響を見極めて河道計画を検討することが重要
 そして改良復旧事業を行う際には、多自然川づくりの考え方を基本とすることや、再び災害が起きぬようにするのは当然ながら河川環境の保全や維持管理の視点を踏まえ、経済性を考慮して河道の計画や施工を行うよう、促しています。
 つまり、気候危機時代の豪雨災害では、土砂や流木によって橋が塞がれて災害を複雑かつ拡大されている事例が散見されているから、流域の自然特性や砂防施設・樹木管理の現状を十分に分析し、その影響を見極めて計画を立てることが必要ですよ、と明記しているのです。
 こうしたガイドラインがあるにもかかわらず、国交省や熊本県は検証委員会や学識者会議、協議会等でも一切、第四橋梁問題に取り組みませんでした。第四橋梁から数キロ下流にある人吉大橋に設置された危機管理型水位計の計測データに異常な数値が見られないから、というのがその理由でした。
 いやいや、それは非科学的で納得できない、と、手渡す会は現地調査や映像解析をこの間ずっと継続してきました。被災したご近所さんほか、メンバーのネットワークをフルに使って、多くの方々にご協力いただきながら。そして得られた知見に基づき、度重なる要請を行い、パブコメでも数多の論点を抑えた意見を出しました。
 にもかかわらず、国交省と熊本県は2022年8月9日に球磨川河川整備計画を策定・公開しました。
 そのため8月以降は、毎月のように、第四橋梁問題に絡めた人吉大橋・危機管理型水位計問題を主に取り上げて、やはり共同検証を行ってほしい、計測できていなかったことを示す映像データがこんなにもある、と提起し続けてきました。
 「上流側からの写真じゃ何とも言えない」というから下流側の写真を見つけて見せたら「解像度の問題で何とも言えない」、浸水深調査を見せると「計測の仕方を聞きたい」というので伝えたらその後の回答はなし、その後を問い合わせると「国交省に伝えたが情報開示請求をかけてくれと言われた」等々の対応にもめげることなく。
(しかし羅列してみるとひどい対応だな、と再認識)。
 こうした申入れを繰り返す中、冒頭のガイドラインを見つけました。今回の要請書を提出したのは、こうした文脈の中でした。
 3/13は、県土木部河川課と球磨川流域復興局の職員8名が、対応されました。申し入れ項目がたくさんあったので、第四橋梁ダム化+決壊と県による四浦地点の流速問題に特化して、議論をしました。
 前者については、合流点周辺にお住いの方の証言や洪水痕跡を示し、ダム化+決壊以外にどう説明できるのかを示してほしい、と求めました。後者は、2020年発災後に県議から求められて示した計算と数値の根拠ならびにこの書類を何のために示したのか説明することを、求めました。
 県は再度、2020年8月と10月の検証委員会資料を提示して説明しようとしました。これじゃ納得できないから現地調査を行って得た知見を踏まえて、第四橋梁に流木等が埋塞して被害拡大に影響したのではないか検証してほしいと提起しているんですよ、と問うても県は同じ対応しかしませんでした。そのため、第四橋梁の閉塞は被害拡大に全く影響を与えていない、と認識していると受け止めていいですか?と問うと、「そうは思いません」。そして「共同検証はしない、と2021年3月にお伝えしています。ただ、疑問にはこうして応えますし、知事や関係部署にも当然伝えます、必要に応じて国にも確認します」と言いました。
 申し入れメンバーからは、「これじゃ説明になっていないってわかるでしょ」、「被害拡大要因を把握できていないのに策定された河川整備計画が実行性あるなんて、技術者としてそれでいいんですか」、「あなたのことを責めたいわけじゃない、けれど被災した流域住民にろくな説明もできない資料しか国交省から提供されなくて、県職として悔しくないんですか」、「誰のための事業かっていうところですよ」、「なぜ国交省の意見は聞いて、私たち地元の人たちが一生懸命調べたことは聞いてくれないんですか」、「共同検証、やりましょ」という声が上がりました。しかし彼らは苦笑いしながら「知事や関連部署には伝えますし、国にも確認します」と応えるのみでした。
 後者に関しては、「国交省のガイドライン(=河川砂防技術基準)に基づいて行った簡便的な試算であって、実際にこうなった、と思っているわけではありません」「県議とのコミュニケーションの一環で行ったことで、これさえ出せないなら何も出せなくなる」「2年前に試算を出した際には、県議から感謝されましたよ」等仰っていました。
 うーん、簡便的な試算を、実態に基づいているわけではなく行ったことの理由と意味を伺いたかったのですが…、そこはわからずじまいでした。実態に基づかない試算を県議に示したって、それがコミュニケーションの一環って、結構すごいこと言ってるよな…と思わざるを得ませんでした。
 手渡す会が同じポイント(=被害拡大要因の共同検証を求める)で何度も申入れをするのは、被災者としての実感の面でも、調査して出会う被災者の方々からも、なぜ今回こんな大水が出たのか、析出することが容易ではないためです。
 球磨川流域にはいくつもの洪水常習地帯があります。人吉市でも同じです。
 それでもなお、人びとはこの流域に住み続けてきました。それは、災害後に「球磨川は悪くない」と多くの方が口にしたように、そして今なお「球磨川の清流を守りたい」と被災した方々や近しい方々が話されるように、暮らしの中で球磨川の恩恵を数多受け続けてきたためです。
 学識経験者や川の傍に住んだことのない人たちには理解することが難しいような経験則を、流域の川沿いに住み続けてきた人たちは、持っています。そして川を破壊するような対策を、流域の多くの人たちは求めていません。
 県職の方々は、国交省と比すればまだ、それなりにきちんと対応しよう、不信感を募らせてはいけない、と思って臨んでくださっているとは思います。ただ、そうした姿勢をもっと徹底して、ガス抜きの流水型ダムの現状を報せる謎の仕組みなどではなく、潮谷知事時代に行ったような、県独自の住民と向き合う実効性ある取り組みを行なっていただきたい、と切に思います。