熊本県人吉・球磨の市民グループ:通称「手渡す会」

求められる川づくり:雨の降り方を踏まえた対策を考えること

なかなか更新が追い付いておりませんが、手渡す会は2023年も引き続き、2020年7月球磨川流域豪雨災害の探求を進めています。
温暖化時代の雨の特徴は、短時間に夥しい量の雨を降らせることにあります。ただし球磨川流域では、梅雨時期の雨と、台風時期の雨とでは、降り方に違いがあり、流域での被害の出方にも違いが生じるようです。
たとえば2020年7月、人吉では9時間に367mmの降雨がありました。かつて最も大きな洪水を発生させたという1982年7月末の降雨は、34時間に326mm。
2020年7月豪雨は、過去の梅雨時期と比較しても、非常に短い時間で多くの雨が降ったことがわかります。凄まじい被害だった中流域では、神瀬で9時間に465mm、大槻で同434mmもの降雨がありました(グラフ①、②)。
ただ、記憶に新しい昨秋の台風14号では、大量の雨が降ったものの、降り方には少し違いがありました。
たとえば、多くの降雨を記録した川辺川上流部の泉町開持では、468mmもの雨が、24時間で降りました。一方、梅雨時期の豪雨地帯である神瀬では、24時間で174mmの降雨でした(グラフ③)。
もちろん、台風14号も過去に比すれば大量の雨であることは変わりありません。ただ、これらの降り方が流域社会にどう影響するかという点では、違いが生じます。
台風14号の際も被害は少なからず生じましたが、2020年7月豪雨時のような、流域のほぼすべての谷沢や支流が激しく崩れる、という状況とは異なっていました。
また、市房ダムの緊急放流をめぐっても、状況は異なりました。少なくとも台風14号の時は、2020年7月豪雨時のように既に浸水して上階や屋根に避難しているにもかかわらず…という状態には陥りませんでした。
(台風14号の際、県はしきりに市房ダムの効果を喧伝しました。ただ、効果の有無については十分な検証が必要です。というのも、サーチャージまで残り数cmだった、球磨盆地では市房ダム放流後に球磨川の堰が破壊されていたなどの問題があり、今回は偶然何とかなったものの…感を払拭できないためです。とはいえ、この点について書き出すと長くなって論点も複数にまたがるため、台風14号時の緊急放流に関する検証に関しては、別の機会に論じます)。
球磨川流域の洪水を含む河川史をたどると、台風よりも前線による水害が多い地域だったことが、わかります。
そして、降雨の特徴と被害の出方について丁寧にたどることは、どのような降雨が流域に大きな災害をもたらすのか、大きな災害をもたらす降雨の場合流域の何がリスクになりうるのか、教えてくれます。
2010年頃からの各地の豪雨災害について注目・検証をしてきた手渡す会にとっては、球磨川流域にとって最も怖いのは、1時間80~100mmを超す雨が、数時間にわたって降り続けること、だと思います(グラフ④)。
と同時に、「流域治水」を標榜しながらダムや連続堤防や地域を潰す遊水地でもって洪水を川に閉じ込め、川の傍に造成する広い道路を使って逃げることを促す治水対策(=河川整備計画+復興まちづくり)に終始している現状を見ると、河川行政は何がしたいの?河川法がこれを正当化する根拠法になっているのであれば変えないと被災地が毎年増加するのでは???、と懸念しています(スライド⑤)。
国・県・市町村は相変わらず、科学的・客観的事実を踏まえたとは言い難い河川整備計画と復興まちづくりを、強行しようとしています。
手渡す会は今年も引き続き、流域の自然史・社会史に学びながら、科学的・客観的事実を踏まえ、将来世代に手渡したいと思える川づくり・まちづくりの実現を、国・県・市町村等に求めていきます。